短編(パラレル)

□108本の薔薇を(2) NRN
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あの日、あの時、両想いだったはずの二人が何故別れてしまったのか、わからない。
でも、あたしはあの人を求めすぎて、あの人はきっと無理をしていたんだと思う。
あたしは子供すぎて、あの人は不器用で優しすぎた。
初恋は叶わないものだって、どこかの誰かはいつもそう言う。


始めの一ヶ月はどこで何をしていても、あの人の姿が頭のどこかにちらついて、
夜に家で一人になると意思とは関係なく涙が出てきた。
街中で失恋ソングが流れているだけで人前なのに目頭は熱くなって、
相当重傷なんだと思った。


それからあたしは、心の隙間に瘡蓋を作るように、なるべく思い出さないように努めていった。
バイトのシフトに余計な時間は目一杯詰め込んで、
高校を卒業して就職してからは何人かの人とも付き合った。
それなりに好きで、だけど、別れを切り出すか切り出されるか、それはいつも時間の問題だった。
いつだって、あたしの左隣は空っぽのままだった。
あなたといる時間以上に、心を揺さぶって痺れさせる物はなかったから。

大切な物は、求めた物は、一体何だったっけ。


華奢で壊れてしまいそうな背中を。
さらさらの長い黒髪を。
綺麗に澄んだ青みがかった瞳を。
すっと通った鼻筋を。
穏やかで女の人にしては少しだけ低い声を。
優しく触れる細くて長い指を。


あたしの五感に届いて響くのはあなただけだから、心が、体が、忘れてなんてくれなくて。
あたしの一部分は、過去に置き去りにしてきたみたい。

思い出は思い出すたびに霞んでは描き足しているから、
寂しくて塗りつぶした過去はいつまでたっても色褪せない。
浮かぶ雲は知らんふりを決め込んでも、青く深い夜の色はあたしを飲み込んで抜け出せずにいる。

他の誰かを好きになっても、きっとあなただけは特別で。
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